ささやきはピーカンにこだまして
「外見だけ。なんだよなぁ……」
「ちょっとぉ。ちゃんと数えてよ、メーメ」
 あ。ごめんごめん。
「はい。さーん。しぃーい」
「もどってる。もどってる」
 うるさいな。
 桃子の足の上に座って、フロアをながめる。
 結城先輩、まだ実取(みどり)の相手をしてるな。
 美香キャプテンは自分の練習に集中しているし。
 たとえ恋人がそばにいても、お互いやれることをやる。
 すてきだなぁって思う。
 だから、結城先輩が美香キャプテンのカレシでも、わたしが結城先輩を好きな気持ちは本当だ。
 バスの王子様と同じ天使の輪っか。
 先輩の外見にドキドキしたのも本当だけど……。
 だからわたしは自分がこわい。
 (だって……)
 だってさ。
 結城先輩にうなずいているアイツ。
 アイツの頭にも天使の輪っか。
「…………ぅぅ」
 だめでしょ。
 ばかでしょ。
 あんなに生意気な年下の子にさえドキドキしちゃうなんて。
 これを《シュミ》で片づけていいものかしら。
「ああ、もう。メーメ、どいて。次、背筋!」
「――はぁい」
 ぶるぶる頭を振って壁際に回れ右。
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