ささやきはピーカンにこだまして
 気安く話しかけて2年の女子はあっというまに征服。そろそろ3年の先輩にもすりよっていくはず。
 そもそも実取(みどり)も悪い。
 部活ではいっさい笑わないし、不愛想で近寄りがたいかんじだから。
 だれにでも愛想のいい二紀(にき)の周りばかりにぎやかになるの。
 生真面目でやさしい小松は、結城先輩の指導が終わると、さりげなく実取のそばにいって、あいつをひとりにしないでやってくれるけど――。
 …って。やだ!
 わたし今、なに考えた?
 いいじゃないの、別に実取がひとりだって。
 あいつは黙々と練習するのが好きなんだから。
 好きでひとりになってるんだから。

 人知れずあせっていたら、その小松がゼーゼ一肩で息をしながらやってきた。
「実取、八木(やぎ)。鏡、出そうか?」
「はい、小松先輩。…じゃ、八木先輩、そっち、お願します」
「え? あ、うん」
 フォーム点検用の重たい大きな姿見をフロアにセットするのは男子の仕事。
 1年生がふたり入っても2年の小松が未だに率先して動くのは、二紀がサボるからだ。
 今の「八木」だって二紀を呼んだんじゃないの?
 実取は迷わず、わたしのほうを呼んだけど。
「八木先輩ねぇ……」
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