ささやきはピーカンにこだまして
「ねえさ、さっきの話の続きだけど。今日、いっしょに帰ろ?」
 とりあえず素振りはする鏡のなかの顔がグラビアスマイル。
 わたしにそんなアイドル顔が通用すると思ってるの?
 なまじそっくりだから、気持ち悪いんだよ。
「いやだね」
 あああああ。
 真面目な1年女子たちまで鏡のなかのあんたをチラ見したわよ、今。
 やめなさい、害虫。
「ねぇ、なるべく早く、掃除終わらせるからさ。――ねっ」
「…………」
 ねって。
 あんた今、鏡のなかから女子に首を縦に振らせたわね。
 極悪人。
 そうまでして、なにがしたいのよ。
「し-い。……っごーお。……っろーく」
 ま、あやしいお誘いには返事をしない。これ鉄則。
「今日、(じゅん)の誕生日なんだ」
「ぇっ」
 鏡のなかで二紀(にき)と目が合う。
 合ってしまった。
「ラケット代カンパしてくれなかったんだから、おごってよ」
 は?
「じゃね。またあとで」
 どなる機会をのがしたら、二紀はさっさとやさしい先輩たちの間に場所を変えちゃって。
「やだ。いくつだったかな」
 と…りあえず……。
「ごーお。……ろーく……」
 4月30日。
 そうか。4月生まれだって言ってたっけ。
 30日って、何座?
「…………」
 うわうわ。
 なに考えてんのよぅ、わたしったら。
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