ささやきはピーカンにこだまして
『姉貴がいてくんなきゃ、だめなの』
『そうですよ。イチローさんも行きましょうよ』
 なるほど。
 きみたちの言葉の意味が、よーくわかりました。

「お先にどうぞ」とふたりに背中を押されたのは、口コミでも高評価の、わたしでも名前は知っていたパティスリー。
 そろそろ世間は夕飯どきで、食後のデザートにはまだ早いスキマ時間。
 混んでいるのはお持ち帰りのお客さんが多いからで、待たずに座れたのはありがたかったけど、さすがに男ふたりで入るのは気が引けたんだろう。
 …と、一瞬でも思った自分の浅はかさをののしりたい。
 ショーケースの前もレジの前も女性だらけの店内で、男子ふたりがテーブルいっぱいのケーキをながめてうれしそうに。
 (シュールだわ)
 なんなら写真を撮って桃子たちにまわしたいくらいの珍風景。
「では。点けますよ。照明は落とせなくてごめんなさいね」
 二紀(にき)がオーダーしたバースデープレートとろうそくは、実取(みどり) (じゅん)が頼んだイチゴのケーキの上に、なんとデコレーションしてのせられてきた。
 悔しいから特別扱いだとは思いたくないけど、男子高校生のお姉さん破壊力、おそるべし。
「準。お誕生日、おめでとー」
 二紀の小さな拍手が、なんと店内いっぱいに広がった。
 (ぃ…ゃぁぁぁぁぁぁ)
 恥ずかしい。
 恥ずかしすぎる。
 唯一の救いは実取 準も照れていること。
 これは、お姉さんキラーの悪名高い二紀仕様らしい。
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