ささやきはピーカンにこだまして
 なによっ。
 たったの11カ月。
 (じゅん)となんか…たったの47日。
 それで年長者のおごりパーティー?
 レジにひとりで置いていかれるなんて、生まれて初めての経験だぁ。


「4479円です」
 ほーら、ギリギリ。
 おぼえてらっしゃい。
 今晩お風呂に入ったらガスの元栓を閉めてやるからね。
 お財布から秘蔵の5千円札を引っ張り出していたら
「――――ペイで」
「はい。――――ですね。こちらにかざしてください」
 わたしの肩の上から、レジのお姉さんに伸びた腕。
 黒のデニムのカバーオール。準!?
「レシートは御入用ですか?」
「ああ、けっこうです。ごちそうさまでした」
 え?
 え、え、え?
 レジのお姉さんは何事もなかったように、準に頭を下げる。
 だって、だって。
 どうなってんの?
「ぼく、7時45分に生まれたんだよ」
 準が、ケータイをジーンズのうしろポケットにしまいながら笑った。
 はっとして見上げたレジの上の時計は7時50分。
「お…、おめでとう?」
 (や……)
 わたしったら。
「ちがう、ちがう! ――はい、これ」
 あわてて、握りしめていた5千円札を渡そうとしたわたしの手を、ちょっと押さえて、準が唇をつきだした。
 そのままわたしの背中を押してドアに向かう。
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