ささやきはピーカンにこだまして
「みっともないでしょ。男に恥をかかせないでよ」
「だって」
 お店のドアを先に立って開けてくれながら、(じゅん)が肩をすくめた。
「わかんないかなぁ。ぼくは今、16歳になったの。同い年の女の子におごってもらうわけにはいかないでしょ?」
「――――あっ」
 そう…か。
 16歳。
 16歳になったんだ、準。
 下級生なのに……。
 なんだか。
 変な。
 気持ち。


 お店を出ると二紀(にき)がいない。
 きょろきょろしているわたしの横で、準がおなかを押さえて。
「いてててててて」
 やだ。
「それ、胃? なに、食べすぎ? んもう。ばかなんだからっ。……ちょっと待ってて。ドラッグストア、すぐそこだからっ!」
 駆けだそうとしたわたしの腕を準がつかんだ。
 半分に折れた身体がふるえてる。
 やだやだやだ。
「そんなに痛いの? 救急車呼ぶ? 吐ける? おトイレは?」
「くくくくく………」
 えっ?
「あはははは。苦しい。もうだめ。あは、あは、助けて……」
 ちょ…、なっ…。
「うそなの!?」
 どういう神経してるの、あなた。
姉弟(きょうだい)っておもしろーい。あは、あは、おー痛っ。あはは。二紀もすっとんで行っちゃったんだ、薬を買いに、あはははは」
 こ…ンの――…
 バチーン…と頬に1発いくはずの手は、かるく振ったように見えた準の手につかまった。
「だって、あなたに払わせるわけにいかないでしょ? メーメちゃん」
「…………」
 それで、二紀を追い払ったって?
 そんな、おもしろそうに。
 そんな…。そんな…。
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