ささやきはピーカンにこだまして
「わたしがどんなにビックリしたと思ってるのよ!」
 信じられない。
二紀(にき)がどんなに心配してると思ってるのよ!」
 頭をよぎるスクールバスの王子様。
 わたしはなにもしてあげられなかった。
「ばかっ!」
 今だってそれが、こんなに恥ずかしいのに。
 い…やなやつ!
「いやな、やつ! 許さないっ」
「ごめんなさい」
 口ではなんとでも言えるわ。
 もう遅い。

 もう顔も見たくない!
 ぶるぶる身体が震える。
 怒りでどうにかなりそう。
「イチローさん……」
 だまれ。
「本当にごめんなさい。あなたがそういうひとだってことは、知ってたのにね」
 そういうひとって、どういうひとよ!
 わたしのなにを知ってるって?
「二紀が帰ってきたらちゃんと薬をもらうよ。…それで許して」
 背中をむけて、怒りで肩を震わせるわたしに、(じゅん)がささやくみたいに言うけど。
「……だまれ」
 許さない。
「お願い。そんなに怒らないで、イチローさん」
「…………」
 その声があんまり弱々しくて。
 聞く耳を持ってしまいそうな自分の甘さがいやになる。
「イチローさん……」
 うるさい。うるさい。うるさい!
 声が聞こえないように、ぶんぶん首を振りながら目が捕らえたもの。
 わたしの身体にかぶさっている黒い影。
 うなだれている。
 準の…影。
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