声と性癖
『食事は食べましたか?』
「帰りに食べて来ちゃいました。もう、帰って作るのもめんどくて。」

『ああ、そういう時、ありますよね。僕も会社で済ませてしまって、家では寝るだけになってしまうこともあるしな。』

穏やかな蓮根の声は、結衣にはとても落ち着く。
けれど、仕事の邪魔をしていないか、結衣は不安になった。

「今、話してて大丈夫なんですか?」
『ん?ああ、話しながらでも、仕事は出来ますから。むしろ、結衣さんの声を聞きながら、なんて、捗るくらいです。』
たしかに、キーボードを打つ音は聞こえる。

『やっと、声聞けたんです。本当は声を聞くことだけに集中したいくらいです。』
囁くような甘い声だ。

「あはは…。」
相変わらずなんだよなぁ……。

『シャワーは浴びた?』
「はい。もう、寝るだけ。」

『何着て寝ているの?』
「パジャマ…?うーん、部屋着?部屋着兼用の寝巻きです。」

『どういうの?』
普通だと思うのだけれど、そんなに食い下がって聞きたいだろうか。
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