声と性癖
声を聞きたいから、とすぐ電話をかけてくるところが、結衣にはくすぐったい。

『なぜ、どちらですか、なんてメールなんですか?』
「会社ですか?」
『ええ。』
「外とか、見れます?」
『え…。』
蓮根の声がとても、戸惑っている。

それだけでも、結衣は心の中でガッツポーズだ。
蓮根が驚くことなんてないから、ちょっとした、いたずらのようで、楽しい。

ブラインドカーテンが動いて、蓮根の姿が見えた。
結衣はひらひらっと手を振る。

さっと、カーテンから、蓮根が姿を消した。
事務所は半地下が駐車場で、中二階の電気は消えていたが、その上の電気が着いていた。

恐らく、そこが、蓮根のオフィスなのだろう。
「結衣さんっ!」
入口のドアが空いて、中から、蓮根が顔を出す。
お仕事モードなので、髪はキレイにオールバックで、少しだけ度が入っているはずの眼鏡。

とても驚いて焦ったようなその姿がなんだか、可愛い。
仕事に邪魔なのか、ジャケットは脱いでいるけれど、ベストは着たままだ。
あ、やっぱ、お仕事モード、すごく素敵かも…。

「おつかれ様です!あ、これ、差し入れです。お食事しました?」
「いや…まだ、」
まだ、戸惑っているのか、蓮根は言葉少なだ。
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