声と性癖
番外:あの時のこちら側
時間は少し戻って、あのドライブデートの当日である。
クローゼットの前で、蓮根涼真は腕を組んで考えていた。

そう言えば、ここ数ヶ月、私服で出かけることはなかったが…。

高槻結衣の正式な年齢は知らない。
先日、ランチを取り、自宅まで送り届けた際の彼女の私服はオフホワイトのニットワンピースで、彼女の清楚な雰囲気にとても似合っていた。

5~10歳位の年齢差だろうか。
全ての反応が初々しかったな、と思い返すと、休みの日に会えることは楽しみで仕方ない。

本当にこんなことは、最近なかった気持ちだ。
誰かと待ち合わせして、デートすることに浮かれた気持ちになるなど。

行先は決めていた。
たまたま、偶然なのだが数年前に購入したリゾートマンションが、結衣のセンターから1時間ほどの場所にある。

周りに観光地もあることは知っているが、行ったことはない。
そもそも、ここ数ヶ月間で久しぶりの休みなのだ。

『私でいいんですか?』
ドライブに行きたいと言ったら、そんな返事が返ってきて、声に戸惑いがあった。
< 112 / 270 >

この作品をシェア

pagetop