声と性癖
仕事のときには、動揺したり、困った様子は多分見せないはずだ。
あの時の感じから、仕事中はプロに徹していることは分かる。

実物は目の前で、困ったり、するのか、と思うと当然なのだが、その戸惑っている様子は可愛くて、愛おしくて、とても欲しくなってしまった。

最近、そのように思うことは、なかった。
仕事が忙しかったし、適度に女性も側にいた。

今は、仕事が忙しすぎて、そんな風に、女性が欲しいとも思ったことはなかったし、必要な場合はすぐに呼び出せる、割り切った関係の相手もいた。
けれど、今そんな女性から連絡があっても、そもそも会おうと言う気にならないのだ。

そんな気持ちになった自分に驚いたし、こんなことはいつ起こるか分からない。
そう思うと、なりふり構うつもりはなかった。

そんな自分に苦笑したのだ。
一日だけでも、側にいたいだけ。
最初はそう思った。

それが今後ももっと会いたい、となり、たまに話せるだけでもいい、がもっと会いたいに変わって。

もっと、もっと、と欲しがる自分の欲しい気持ちは底無しな気がして、怖いと思いつつ、その深淵を覗いてみたいとも思う。
厄介だな。
嫌なら、いつでも拒んで構わない。
けれど、結衣の優しい、思いやりある性格ではそれも無理だろう。
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