声と性癖
結衣は自分が対応する前からの、コールの内容をログから確認してみる。

事故を起こしたところから、名前や所在地、相手の情報など、蓮根は落ち着いてこちらに伝えてくれている。
たしかに、困らせようという意図はなかったようだ。

けれど、対応していたのが、社歴の浅いスタッフであったこともあり、イレギュラーの対応に困った、というだけのようだった。

蓮根は冷静に話をしてくれている。
むしろ、怒り出すような人でなくてよかったかも。

スタッフにはこういう時はSVを呼んでいいよーとだけ言おう、とログを切ろうとした瞬間、ヘッドセットから聞こえた低めの声の、ふぅ…とつかれたため息にぞくっとした。

なに…今の…。
『仕方ないな。急いでいるし。君、名前は?』
『高槻と申します。』
『フルネームは?』

その時は、うざっ!と思ったけれど、今、改めて聞くとまたぞくんとする。

な、なんだろ…。

低めの甘い声、ささやくような声は時折、掠れる。その掠れ具合も。
イヤホンで聞いていると、腰のあたりがぞくぞくする。
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