声と性癖
「結構最初のほうから。結衣さん、話している声もいいんですけど、ため息のような少し吐く息も、すごくいいんですよね……。」
とても満足気な蓮根のため息混じりのそんな告白に、結衣はやや引き気味だ。

褒められてんの?それ?
すごく、すごーく複雑な気持ちなんですけど!

「蓮根先生、それって大丈夫ですか?」
「個人でしか使用しませんし、そもそも、結衣さんの姿や声を、他人と分け合うつもりは全くありません。」
キッパリ言い切る蓮根だ。

確かに蓮根ならば、拡散や流出はしないのだろうが。
……にしても、だ。

「いや……?」
ふわっと抱きしめられて、柔らかく微笑みかけられ、すうっと頬を撫でられる。

今更……?
変な人なのは充分承知だ。

「今後は言って下さい。」
結衣は、蓮根の目を見つめて、そう言った。
蓮根が少し目を見開く。
「どうしました?」

「あ、いや、あなたって人は……。」
ん?

この人がこの整った顔立ちを押して余りあるほど、変な人なのは本当に分かっている。

今までの数々の発言で!
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