声と性癖
兄の性癖を把握している楓真が、さりげなく尋ねた。

「僕が今まで性癖を隠して、付き合ったことあるか?」
「ないけど…。」

「隠してはいない。だから、彼女用のフォルダがあると知ってる。」
「マジか…。」
「しかも、彼女自身はまっさらなんだ。」

涼真は、うっとりと目を細める。
楓真は気の毒そうな顔をしているが、その表情は失礼ではないだろうか。

「まあ、俺はなんも言わないし、向こうが分かってんならいいけど。」
「最初は声に惹かれたんだ。けど、姿を見たらまた会いたくなって、会ったら欲しくなって、欲しくて欲しくて、やっと来てくれたんだよ。」

兄のその表情は見たことが無いほど、温かいものだったので、楓真はまあいいかと思ったのだ。
「紹介してよ。」

涼真は口元にだけ、笑みを浮かべる。
「いつか、な。」
「今、いるのに紹介してくんないのかよ。意味分かんない。」

涼真にしてみれば、今なんて会わせられる訳がない。
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