声と性癖
初めての夜を過ごした朝なのだ。

仕事は仕方ないけれど、そんな結衣を共有するつもりは一切ない。

「わがまま言うなよ。今度場を作るから。今日はダメだ。」
「わがままはどっちだよ。」

それでも、言い出した事を引くような兄でもないので、楓真は素直に今回は引き下がることにする。

「じゃ、今度。」

リュックを、背負ってオフィスを出ていく楓真に涼真は声を掛けた。
「楓真、仕事は完璧だ。」
「んー。また、よろしく。」

楓真はオフィスを出て、ふと、先程の事を最初から思い出す。
兄は見たことがないくらい、彼女を抱き込んでいた。

天井に近い細い窓から降り注ぐ光の中に2人はいた。ころん、と丸まっていた彼女を守るように後ろから涼真が抱きしめていた。

それが、その、2人の光景があまりにも幸せそうで、壊したくなくて、固まってしまったのだ。

しかも、その光景はとても綺麗で、まるで一幅の絵のようだったのだ。

今まで、彼女がいるなんて話は聞いたことがないから、付き合い始めたのはごく最近なのだろう、と楓真は察する。
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