声と性癖
その日の研修が終わったあと、研修室に藤川がポツンとした様子で座っていた。

俯いていて、暗めの様子に結衣の心拍数は上がってしまう。
まだ、数日間の研修で辞めるとか言われたら、それはショックだ。

それに、まだどんな可能性があるか分からないのに。

「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」

挨拶したところで、話にくそうなのは間違いなく、結衣は柔らかく話かける。

「研修、どうですか?」
「あ…、自分は新しいことばかりで、面白いこともありますけど、なかなか知識がなくて…。」

「不安ですか?」
「そうですね…、少し…。」

「アンタ、新人なんだから、完璧にやることなんか、無理!そんなこと求めてないし!」
ハキハキっと結衣が言うと、藤川がびっくりしている。

結衣はにこっと笑った。
「…て、言われたの。私。入社してすぐ。そうか!と思いました。知識が不足しているのが不安ですか?」
「はい。」

「じゃ、覚えましょ。もうすでに、藤川さんはご自身で足りないところが分かっているんだから、あとは、そこを補強すればいいだけですよ。」

「そ……か。そうですね。」
「そして、藤川さん、当社の社員数、ご存知ですか?」

きょとん、としている。
「10000人です。」
「は……あ……」
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