声と性癖
「ご自身が勤務されるところですから、確認しておいてもいいんじゃないでしょうか?」
「いいんですか?」
それくらいは、結衣の権限内だ。

「どうぞ。」
にこっと笑って、結衣は案内する。
2人は研修室を出て、コールセンターに向かった。
同じビルの別の階にあるのだ。

「藤川さん、結構、背高いですね。」
「デカいだけで、あんまりいいことはないんですけど。」

エレベーターの中で隣合った藤川を結衣がふと見上げると、藤川は実は顔立ちも整っているのだと知った。
けれど、猫背気味だし、何やら自信がなさそうに見える。

「背、高いの気にしてるんですか?」
それで猫背なんだろうか。

「はい。それで目立つせいかじろじろ見られたりするので。」
「それ、多分、顔立ちのせいですよ。」
「顔、ですか?」

「うん。藤川さん、背高くて、顔立ちが整っているから目立つんです。目立つの、苦手なんですね?」
「整っているかは別にして……。確かに見られるのはあまり得意じゃないかも。」

「そうですね、じゃあ、例えば藤川さんをじっと見てくる人がいたら、まっすぐ見て、ちょっとだけ、笑ってみてください。
絶対、目は逸らさないで。逸らしたくなるけど、逸らしたら死ぬ!くらいの感じで、逸らさない。」

藤川は驚いているけれど、結衣はどんどん言葉を続ける。
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