声と性癖
結衣はその様子を見ていて、ついにこにこしてしまった。
言われたことを即実践する前向きさは好ましい。

「結衣っち、見学?」
「はい。少し、見せてくださいね。比較的、落ち着いてるみたいですし。」

「まあな。今のところは。」
「男性…多いですね。」センター全体を見渡して、藤川がそう感想を言う。

「うん。夜勤は7割8割男性かな。手、空いてるから俺が案内してやるよ。大丈夫だよ、取って食わねーから。」

来な、と佐野は藤川を連れていこうとする。
佐野は結衣の上席になるので、預けても問題はない。

が、一瞬心細そうな顔で藤川は結衣をちらっと見た。
そんな子犬のような目で……。

「15分くらいだよ。それくらいは結衣先生がいなくても、大丈夫だろ?ほら、結衣っちはメールチェックとかしてこい。」
「お願いしまーす。」
「藤川くん?下の名前は?」

佐野らしい気づかいで、フリーになった結衣は、15分で今日の報告書の作成を終える。

リーディングルームには残業中の莉奈もいた。
「ご相談?どうだった?」
「佐野さんが案内してくれてる。」
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