声と性癖
『結衣さん、本当にお仕事好きですね。』
「そうですねー。そうかなぁ。」
柔かい声で、涼真が褒めてくれるので、えへへーと結衣は返す。

『頑張っていて、いいと思いますよ。けど、…たまには僕のことを思い出してくれると嬉しい。』
「え?だって、涼真さんは別でしょ。会社の人とは全然違いますよ?」

『可愛いって、思ってくれます?』
わざとのように少し拗ねた声。
うーん、可愛くは、ないかなあ……。

「素敵ですよ?あ、でも、たまーにわがまま言う時、ちょっとだけ可愛いかな。」

たまーにね、たまに、ちょっとだけ!

結衣は一生懸命、涼真の可愛いところを思い出しながら、答える。
電話を通じて、ふふっという、涼真の笑い声が聞こえた。

『結衣さんの、そういうところが好きなんですよ。』
ふう……と受話器から、ため息だ。

『結衣さん……会いたいです。結衣さんがお仕事好きなのは分かっているから、邪魔はしたくないんですけど、あなたを独り占めしたくて、どうしようもなくなるときがあるんですよ。』

特に、そんな風に他の人ばかりに気持ちをむけられていたら……。
少し、寂し気な声は胸を掴まれる。
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