声と性癖
その時佐野は、刺すような視線を感じて顔を上げた。

目の前にいたのはひどく整った顔立ちの男で、ぱっと見た感じとても仕立ての良さげなスーツを着ている。

そのくせ、青ざめた顔色で。
「……結衣さん?」

あ、高槻の知り合いか……?

「え、涼真さん?」
「大丈夫ですか?」

その男はさり気なく、佐野の腕の中の高槻を奪っていった。

……そういうことか?

後ろから来た女子が、きゃーと黄色い声を上げている。
見た目、俺とさほど歳は変わらないと思うんだが。

いかにもエリートっぽいスマートな雰囲気や、同性でもおっと思うような顔立ちでは、確かに女子がきゃーきゃー騒ぐのも納得だ。

しかし当の高槻は、ぶっ倒れそうな顔をしているが、大丈夫か?

「結衣っち、彼氏?超絶いい男だな。どうも、高槻の上司の佐野といいます。」
とりあえずこの場が収まるよう、佐野は高槻の彼と思しきその男性に挨拶をする。
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