声と性癖
北条をふと、見ると『お願い!』と顔に大きく書いてあり、目の前で両手を合わせて拝まれている。

「本社営業部の重要先なんですよね。私でいいんですか?」
「つか、高槻さんの大ファン。」

「そんなことしてないと思うけど。顔くらいなんてことないですけど、いいんですかねー、顔出しなんかしちゃって。」
「大丈夫。僕も今まで、高槻さんの声しか知らなかったけど、今日お会いしてますます大好きになりました。お願い!」

そんな、適当な…。
ほんっと、営業さんは口がうまいよ…。

分かりました。いいですよ。
と結衣は苦笑する。

北条達のいた部屋は、その割烹の中でも、お得意さまをお連れする用の高級なお部屋だった。

畳のその部屋の奥に座っていたのは歳の頃は、北条より少し歳上くらいの男性。

その人はネクタイも緩めず、日本酒に口をつけていた。
少し長めの前髪をオールバックにあげていて、整った端正な顔立ちをしている。

ちらりと結衣を見たけれど、表情は変わらない。
むしろ急に入ってきた、二人に驚いたようだった。
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