声と性癖
そもそも仕事の件で訪ねたので、それについては細かく聞くことも出来ず、楓真はデータを涼真に渡した。
その確認をしてもらっている間、じっと見つめても涼真がなにかを言う気配はない。

こんな時の兄は何も言わないことが分かっているので、楓真はやむなく自分から切り出すことにする。
「えっと……人いたよな。」

涼真に淡々と返される。
「いたな」

「女性だったよな?」
「女性だな。お付き合いしている人だからな」
さらりと言われた。

しかも兄曰くに、涼真の性癖を理解していて、まっさらな女性だと言う。
そんな都合のいいことあるんだろうか??
そう思ったけれど。

涼真はあまり他人に心を開かない。
昔はそんなことはなかったと思うのだが、頭の回転がよすぎるせいだと、楓真は勝手に思っている。

涼真は人の考えを先読みして、先回りするタイプだ。
感覚の鋭さはいいこともあるが、気付きたくないことにまで気付いてしまったら、傷つくこともあるだろう。

そういうことの積み重ねが、兄を頑なにしていったような気がするのだ。
< 244 / 270 >

この作品をシェア

pagetop