声と性癖
けれど、今の彼女のことを話す兄はとても穏やかな表情で。

もしかしたら、本当にいいパートナーなのかも知れない。
楓真はそう思った。

そんなある日、楓真が自宅マンションに帰ったら、部屋付近に人だかりが出来ていた。

少し嫌な予感がしたのだが、隣の住民の姿を見つけ水漏れが発生していると聞き、まさかと自分の部屋をあけたところ、洗面所からバスルームに向かって水浸しとなっていたのを発見したのだった。

マジか……。

水浸しと言っても、床が濡れている程度のものではない。
壁から浸水してきているその迫力は半端ない。

嘘だろ……。
さすがの楓真も呆然としてしまう。

その時、呼び鈴が押された。
上の部屋の住人だった。

もう泣きそうな顔で……というか実際涙を浮かべて、風呂の水を溢れさせてしまった、申し訳ないと真剣に詫びている。

通常は自動で止まる風呂のお湯はりだが、故障していたようで、止まらずに溢れてしまったのだそうだ。
一概に住人が悪いのだとは楓真も言えなかった。

今更どうしようもないことだし、よりによって、土曜の夜で管理会社とも連絡つかない。
自分はとりあえず、今日は兄のところに行くので、また改めて連絡をもらうように、と頼み連絡先を交換する。
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