声と性癖
まさかその兄の家に彼女がいる、とはほとんど想像していなかったのだが。

「涼真兄ーー」
と部屋に入ると、兄は微妙な顔をしている。

楓真にしてみれば、兄が表情を変えることはないので、どうしたのだろうかと一瞬は思ったが、その瞬間鼻に飛び込んできたいい匂い。

食事、作ってんのか?
最近は珍しい……。

「どうしたんだ?」
「俺のマンション……てか、なんかすげーいい匂いする」
楓真がそう言うと、「こんばんは」と笑顔でキッチンから出てきた女性がいた。

エプロンをつけて、ぺこんと頭を下げている。
もこもこの部屋着に可愛いエプロン。

髪をお団子にまとめていて、笑顔が可愛い。けど……多分あの時の彼女だ。
陽の光の中で、兄に抱かれていた。
無防備な姿……。
あの時は、すぐに布団で隠されてしまったけれど。

彼女は、高槻結衣と名乗った。
どうしたんだと涼真に聞かれ、マンションの惨状を語る。
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