声と性癖
すると彼女が思いもかけないほど、はっきりした口調で、
「賠責じゃないかな?」
と言ったのだ。

賠責?賠償責任かな?

淡々と向こうに支払い義務がある、とか建物構造上の問題なら保険があるはずだとか、女性にしてはなかなかゴツいことを言い出し……。

けれど、正直カッコいい、と思った。
大丈夫と結衣がにっこり笑った時は、そうかあ、大丈夫なんだなと思ったくらいだ。
てか何者?!
ふと見ると、兄は彼女に見惚れているし。

「何者ですか?」
「通りすがりの保険会社の者です。」
通りすがりて……。
どんな、通りすがりだよ。

「結衣さん、本当にあなた、素晴らしいですね……」
涼真は手放しで絶賛している。

完璧主義の涼真は、人を褒めないと思っていたが、この彼女にメロメロのようだ。

たしかに突然スイッチが入った時は驚いたが、冷静で落ち着いていて、安心感があった。
ただ兄に甘えたり、女性を武器にしているだけの人でないことは分かる。
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