声と性癖
4.マウント噛み噛み
蓮根がいる、というバーは重い木製のドアの向こうだった。
店内のライティングも落ち着いた雰囲気で、シックというよりは、モダンだ。

薄暗い店内で、カウンター辺りを少し明るい光が、照らしていて、その中に蓮根はいた。
綺麗な整った顔と、こうして離れて見るとバランスの良い身体を見て分かる程の高級なスーツに包んでいる。

カウンターで、一人で蓮根がグラスを傾けているその雰囲気は、壊したくないような感じだ。
入口が開いた気配で、蓮根が顔を上げた。

また、蓮根は結衣に向かってふわりと笑う。
店内でもおそらく目立つ存在だったのだろう、冷たい白皙が、その表情とともにふわりと緩み、さらに魅力を上乗せする。

「高槻さん。来てくれたんですね。」
「はい。近くでしたし。気になって……。」

「やはり、あなたは優しい。」
何を飲みますか?と聞かれる。

「オレンジブロッサムをください。」
それはジンとオレンジジュースのカクテルで、さっぱりした口当りが結衣は好きなのだ。

「いいお店ですね。」
「そうなんです。音楽も大きくないし、ここで会話される方は結構落ち着いているので、静かに話をするならここだと思って。ご宿泊先にも近かったし。」
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