声と性癖
今、そのリアルな感触すら感じた気がして。
結衣は思わず、ぎゅっとシートベルトを掴んでしまった。

運転席から、すうっと伸びた手が、結衣の唇を親指でなぞる。
逃げればいいのに、結衣は身動き出来ない。

運転席の蓮根が射るように、真っ直ぐ見て来るから。
その整った顔に笑みが浮かんでいると、それはもう壮絶な色気で。

しかも、蓮根は全くそれを、隠そうとはしていない。
獲物を狩るようだ。
    
「この、唇に唇を重ねて。そうだな、舌でも味わってみたい。それから、中に、舌を入れて…、あなたを思う存分味わったら…」
「っ…あ、いや、です。」

「いや?そうかな?」
蓮根の整った顔が近づいて、唇、重なるかも…!結衣がぎゅっと目をつむると、ふわっと耳に息がかかる。

気持ちいいですよ、きっと。

耳元で囁かれて、そのぞくっとした感じは、出口がなくて、お腹の辺りがきゅっとする。

「っう…」
「なんで、泣くんです?してませんよ?なにも。」
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