声と性癖
「うー、しましたよ!いじわる!」

分からないけど、感極まったと言うか、気持ちの行き場がない、と思ったら涙が溢れていたのだ。

「ある意味、車でよかったですよ。」
蓮根に頭を抱かれて、ポンポンと頭を撫でられる。それは、今までの中では、いちばん安心できる接触。

「別の場所なら、そんな顔で目に涙を浮かべていたら、平静でいられる自信はなかったですね。」
「蓮根先生、怖いです…」
「男はみんなオオカミらしいですよ。」

さっきまでの気配は消して、くすくすと笑う蓮根はハンドルを握って、エンジンをかけた。

…にしても、この顔に、あの声、凶器だよ…。

「結衣さん、着きましたよ?」
「ん…」

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
本当だ。ちゃんとマンションの前だ。

「ありがとうございます。本当に、充分気をつけて帰って下さいね。」
「はい。お気遣い、ありがとうございます。」
蓮根がにこっと笑う。

「帰ったら、連絡してください。心配だから。」
対する結衣は真顔である。
「分かりました。結衣さん。」
「笑ってないで、真剣なんです。」
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