声と性癖
それは触れたと同義なんだろうか?
あの時の結衣は、単純に嫌がっている、と思っていたけれど、そうではなかったら…?

生々しく触れられた、と、同義で、喘ぎだったとしたら…?

ふっ、と蓮根は笑う。
そんな訳はないな。
最後まで名前では呼んでくれなかった。
距離がある証拠だ。

抱きしめただけで、あんな甘い声を上げたくせに、キスもダメ、と言われたし。

『もう、いいですよね。お約束、したでしょう…?』

いい聞かせるような声。
なんでも叶えてあげてしまいたくなる。

蓮根は両腕を組んで、天井を見上げる。
大きく息をついた。

中毒みたいだ。

また、欲しい。
あの声が。
もっと話しかけてほしい。
名前を呼んでほしい。
もっと…、もっと……欲しい彼女が。
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