声と性癖
電話の向こうで蓮根が、はぁ…とため息をついている。
結衣はぞくんとはするが、実際に耳に吹き込まれた時程ではない。

『あなたのそんな声を聞いたら、すごく会いたくなる。』
スイッチの入っている蓮根の声。

故意に甘さを足しているのだろうか、と思うような。
聞いている方が、蕩けそうな。

普通に話していると、いい声だなあくらいなのだが、これはダメだ。
くらくらする。

「そんなこと、言わないで下さい…」

『そうだ!せっかく車が帰ってきたので、ドライブに行こうと思うんです。今週末、どこか空いていませんか?』

「土曜日なら…」
確か、今週の土曜日は非番だったはずだ。

『ああ、いいですね、土曜日。そこから車で1時間位のところにいろいろ観光スポットがあるの、ご存知ですか?』

「行ったことはないんですけど。」
『じゃあ、行きませんか?土曜日。』
「私でいいんですか?」
< 58 / 270 >

この作品をシェア

pagetop