声と性癖
「うん。…なんだけど。」
「私、結衣さん伝説、聞いたことあります。」

「何それ?」
「お客様とお電話してて、対応が完了するとき、あなたと話せなくなるのが嫌だと、言われたとか。」

「お褒めが一転して、クレームになるところよ。」
伝説でも何でもない。
本当のことだ。

「神対応といわれてますもんね。」
「私はいいんだよね、ある意味プロだから。けど客先に、はどーなのよ。」

結衣はテーブルに肘をついて、俯いて額辺りを指で支えている。

「え?お客様?そんな素敵な声の持ち主いるんですか?」
途端に莉奈がわくわくしだした。

「そーだよね!仕事だとそうなるじゃない?私だって今まで、そんなんなったことない!」
「んー、個別案件ってことですよね?それはー…。」

個別案件…用語を使われた。
しかも絶妙だ。

そう。間違いなく個別案件なのよ……。
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