声と性癖
「明日以降で、弊社で対応出来る車種からいくつか、ご用意致しますので、ご希望のお車については、明日以降、再度ご連絡させて頂いてよろしいでしょうか?」
そして、先方の希望についても、対応することを明確に伝える。

ふっ……と電話の向こうの雰囲気が和らいだのを結衣は感じた。
実は結衣には、こういうことがよくある。

電話なので雰囲気など感じないように思うのだが、ふと、電話の向こうで雰囲気が変わることを感じることがあるのだ。

『……。仕方ないな。急いでいるし。』
良かった。やはり、当初のイライラした感じは少し落ち着いている。

『君、名前は?』
「高槻と申します。」
『フルネームは?』
うわ!これめんどくさい人だ!

名前を名乗っている相手にフルネームを訊ねる、というのがもう、面倒な相手だと物語っている。
しかし、そんな相手でも丁寧に対応することに、結衣は慣れていた。

「高槻結衣です。」
むしろ、そういう相手には結衣はハッキリと名乗ることにしている。
『では、高槻結衣さん、お電話お待ちします。』
先方も復唱して返してきた。
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