声と性癖
「音が、すごい。」
「波の音、ですか?」
打ち寄せる波の音が、響いているのだ。

「はい。けど、落ち着きます。自然って、いいですよね。」
「そうですね。」

そう言って、蓮根は結衣の手を握る。
「転ぶといけませんから。」
「転びませんよ。」
とは言ったけれど、結衣にはその手を振りほどくことは出来ない。

蓮根が自然に手を繋いできたから、雰囲気を荒らげたり、この空気を壊すようなことはしたくなかった。

さらりとそんな事が出来てしまう蓮根は、大人なんだな、と思う。

「寒くないですか?」
「ん、少しだけ。」
「車に戻りますか?」
「もう少しだけ、ここにいたいです。ダメですか?」
「もちろん、いいですよ。」

座りましょうか?と防波堤の方を指さされる。
蓮根の横に座ろうとしたら、繋いでいた手を強く引かれた。

「あなたはこっち。」
それが、膝の上、で。
すとん、と蓮根の膝の上に結衣は乗せられてしまう。
< 71 / 270 >

この作品をシェア

pagetop