声と性癖
8.備えよ常に
「ねぇ?この前、言いましたよね?『この、唇に唇を重ねて。そうだな、舌でも味わってみたい。それから、中に、舌を入れて…、あなたを思う存分味わったら…』って。」
そう言いながら、蓮根の指が、結衣の唇の横を撫でる。

けれど、結衣はやはり、先日のように、言われたまま頭にその感覚が蘇り、思わず、声が漏れてしまった。

頭の中で、舌をなめられたその感覚をつぶさに感じるような気がする。
「っ…、ふ…っ。」

「何も、してませんよ。触れてもいないし、キスをしてもいない。ただ、説明しただけです。」
けど、と耳元に口を近付けられた。

「想像したんですよね?僕が、あなたの唇に、唇を重ねるところ。それを舌で味わって、中にも舌を入れて、舌を絡めて、あなたの口の中を蹂躙するところ。」
わざと細かく描写する、蓮根だ。

「っあ…や…」
「可愛い。有り得ないくらい、可愛いです。結衣さん、キスしていいですか?」

結衣はもう、呼吸困難寸前だし、頭はぼうっと霞がかかったようで、なんだか、判断出来ない。

とにかく、涙目で蓮根を見ることしか。
「どうして、聞くのっ?」

霞がかった頭で何とか、疑問に思ったことを尋ねた。
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