声と性癖
「ご都合の悪いお時間帯などはございますか?」
こういう相手には、念には念を入れた方が良いことも、結衣は経験上分かっている。

『いえ。いつでも結構です。あなたの電話には出ますよ。』
「では、明日の午前中には、お電話いたします。」
『待ってますよ。』

最初は素っ気ないような気配だったものが、電話を切る頃には、笑いを含んだような声に変わっていて、結衣は一安心する。

「高槻さん、すみませんでした。」
対応していたスタッフは恐縮するが、それには結衣は笑顔を返した。

「ん!気にしなくていいですよ。後で、ログだけ確認しますね。車がちょっと特殊だったからね。」
ログというのは、録音記録のことである。

『お客様対応の品質向上のため……』とよく流れているアレ、だ。
結衣達の会社では、こういう場合に確認して、対応を向上するようにしているのだ。

えーっと…。
しかし、結衣はそのまま知り合いの代理店に連絡を入れた。
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