声と性癖
「高槻ですー。」
『あ、結衣ちゃん!どーしたの?』
「今、困っていて。お知恵を貸して下さい。」

代理店の担当者は、ひととおり話を聞くと、ふーん…と唸った。

『イタ車はこだわり持って乗ってる人が多いからね。マセラティではレンタカーもないだろうし、ディーラーか、外車専門で貸してるとことか、外車修理を得意にしてるとこに聞いてみてあげるよ。』

やっぱりね……。
聞きかじりの知識ではあったけれど、どこにでもある車、というわけではないようだ。

今日は何時まで?と聞かれ、上がり時間を伝える。
『分かった。では、また連絡するよ。』
と彼は電話を切った。

こんな風に結衣を助けてくれる人がいるのは、実は前の部署にいた時の縁なのである。

結衣の異動が決まった時、引き継ぎのため、結衣は担当していた代理店には、挨拶の連絡をしていた。

──何かあったら言って。
それに遠慮なく甘えてしまっているのだ。
それでも、助けてくれる人がいるのは、ひとえに結衣の人柄ではあろう。
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