ずっと気づかなかっただけ。
「…ムカつく。」

太一の顔が急に視界いっぱいに広がって、

「っや、」

後ろに反射的に数歩さがる。

ぎゅっと硬く閉じた目を恐る恐るあけると、

目の前には誰かの手のひら。

「太一。悪いけど、千景の友達として見過ごせない」

背中越しに聴こえてくるのは、

クマさんの声で。

クマさんが肩を引いて、私を背中に隠す。

「落ち着け。本意じゃないだろ。」

「太一…あの、隠してた感じになってごめんなさい…」

声をかけると、

太一はゆっくり深く息を吐く。

「クマ先輩、ありがとうございました、止めてくれて。…結城ごめん、こわがらせた。また教室でな?」

太一がいつものように戻って笑って背を向ける。

でも笑顔がいつもと違って。

「太一っ、「バカ。鈍感。今は追いかけるな。」」

クマさんが私の手を掴む。
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