黒崎先生、質問です
そんな私の元に近づいてきた奥さんが、そっと耳打ちした。
「今日は2人みたいだけど、あの人達よ」
「……ありがとうございます」
やっぱりあの人達なんだ。
「声、掛けなくていいの?」
勇気を出してみようってこの前思ったけど、いざ本人たちを目の前にすると気持ちが揺らいでしまった。
「やっぱりやめときます」
変な女と思われても嫌だし、と理由を付けて返した。
「そう。じゃあ私が聞いてみるわ」
「え」
任せなさい、と言わんばかりのウインクをされ、奥さんは彼らの席に注文を取りながら近づいた。
「コーヒーを2つね。ねぇ、今日はもう1人の子はいないの?」
「あー、アイツは本を読むので忙しいみたいっす」
「あぁ、あの子が本好きな子だったのね」
「アイツ、俺らより本を優先するんですよ」
「気になる女がいるとかなんとか言って」
「あら、いいじゃない」
「そんな奴じゃなかったんすけどね」
「恋をすると人って変わるものよ。じゃ、コーヒー持ってくるから待ってて」
と彼らの席を離れ、私の所に近づいてくると私にしか聞こえないよう「残念、この前の彼いないみたい」と教えてくれた。