黒崎先生、質問です
学校の敷地内を出て電車に揺られ、降り立ったのは家の最寄り駅の2つ手前の駅。
「この本、今日中に読みたいな」
読めるかなぁ。
全部読み切りたい気持ちを抑え、途中まで読んだ所にしおりを挟んで鞄にしまい、足を向けた先は___私が働くバイト先。
そこは、私にとって幸せな場所であり楽園。
「はぁ…今日も頑張ろ」
高校生になったら、バイトは本屋でしたいと思ってた。
その念願が叶い、駅前のこの大きな本屋で働き始めてもう少しで2年になる。
だけど、3年生になると大学受験が控えているからもう少しで辞めなちゃいけないのが辛い所。
それが1日1日近づくたびに出勤前の溜め息が大きくなる。
「林檎ちゃんおはよう」
「おはようございます、佐藤さん」
ロッカールームに入ると同じ遅番の佐藤さんが先にいた。
2児の母とは思えない32歳の綺麗な人で、凄く優しい人。
「今日も暗い顔だね」
「…はい」
「もう少しで辞めちゃうから?」
佐藤さんの問いに答えながら着替えをしていた手をピタリと止める。
「…林檎ちゃんは本当に本が好きだね」
「大好きです」
そんなの当り前のことだ。
本に触れられない人生なんて考えられない。
溜め息が出てしまうのも、暗い顔をしてしまうのも仕方のない事。