ブラック クリスマス
あの時の、もう思い出せなかったはずの顔で、笑顔で、
ひらひらと手を振って笑う彼の姿を見た気がした。
勿論、そこにあるのは無人の道で、車も人も居ない道路で、
私はぽつんと立っている。
あぁ。
「やっぱり嫌いだなぁ」
顔に当たり始めた雨交じりの雪が、少しずつ真っ白な雪に変わり始める。
再び点滅を始めた信号に少しの煩わしさを覚えながら渡り切った先で、
もう一度振り返ったら彼がいるんじゃないかなんて、
バカみたいな幻想を振り払って。
……うそ。
本当は大好きだった。
噛み締めた口元が、埋めたマフラーの下で思わず震えた。
じんと熱くなる目頭は、きっと寝不足のせいだ。
論文ばかりして、徹夜を続けた酷使した目の悲鳴だ。
もしくは、急に吹き付けた寒風のせい。