頑固な私が退職する理由
喉の渇きを感じて目が覚めた。
いつの間に眠っていたのだろう。あまり記憶にない。
すぐそばに青木さんの寝息が聞こえる。
裸でぴったりくっつくように眠っていたから、ずいぶん汗をかいてしまった。それで喉が乾いたようだ。
こうなることを見越してか、ベッドサイドチェストにペットボトル入りの水が準備されている。
きっと私が入眠したあとで彼が置いてくれたのだろう。
照明もすべて落としてある。それも彼がやってくれたにちがいない。
彼はぐっすり眠っている。眠りが深いタイプなので、ちょっとやそっとのことでは起きないだろう。
私は静かにベッドを出て、まず水を飲んだ。
本当に喉が乾いていたから、ボトルの半分ほどを一気に飲んでしまった。
窓から入ってくる光の量から察するに、そろそろ夜明けのようだ。
大きな窓へと歩み寄り、裸のまま外の景色を眺める。このホテルは都心にありながら周囲には木が多い。木々の間に街灯に照らされた首都高速が通っており、車も通っている。
遠くの方にもやがかかったビル群が見える。ビルの形から察するに、新宿だ。
「ん……」
寝返りを打った彼と東京の景色を見て、私はある決意をした。
隣のベッドの上から自分のコートを探し出し、ポケットからスマートフォンを取り出す。
ポップアップ通知を見ると司から「ファイト!」とふざけたスタンプが送られてきていたが、それは未読無視することにして別のトーク画面を開く。
私は一度深く深呼吸をして、慎重に文字を入力した。
必要なことだけ打ち込んで、送信。
しばらく騒がしくなるだろう。
私はスマートフォンをサイレントモードにして、ふたたび彼のいるベッドに潜り込んだ。