頑固な私が退職する理由
私たちは本当に気が合って、その後ずっと「中流お嬢さまあるある」で盛り上がった。
中流と定義したのは、私たちのような“一般家庭よりちょっと裕福”程度の小金持ちとは格の違う、浮世離れした超ド級の大金持ちも知っているからだ。
「社長令嬢なんてひとくくりにするの、やめてほしいよね」
親の役職で勝手な先入観を持たれることに気持ち悪さを感じていた。
「わかります。うちは習い事もあれこれやらされたし、生活に関しても厳しかったので、すごく甘やかされて育ってると思われるのがすごく嫌でした」
ピアノに日舞、水泳、空手、お茶にお花、そして塾……子供の頃は休みらしい休みなんか一日もなかった。
「私も! 自由に遊べる子がうらやましかったなぁ」
彼女はピアノ、バイオリン、水泳、テニス、ダンス、そしてやはり塾。
なかなか遊ばせてもらえず寂しい思いもしたけれど、才能を伸ばすチャンスをもらえたことへの感謝の気持ちもある。
子供の頃から時間に追われる生活が当たり前だったので、怠惰に過ごして時間を無駄に使うことがない人間に育ったのもよかった。
……まぁ、恋愛的に時間を無駄にしているところを突かれると返す言葉が見つからないが。
「お小遣いを異常にたくさんもらってると思われてたりしませんでした?」
「思われてた〜! お小遣いなんて家庭によるよね。私、高校の頃はバイトもさせてもらえなかったから、周りの子たちの方がリッチだったなぁ」
そもそも景気のいい会社もあればそうでもないところだってあるのに、社長イコールお金持ちだと思うのは短絡的だ。
まぁ、私の家は事業がうまくいっているから、金銭的に困ったことはない。
でもだからといって家族全員が湯水のようにお金を使えるわけではない。
「お金はな、稼ぎ方以上に使い方の方が大事なんやで」
母は常々そう言って、姉にも私にも、小遣いやお年玉の使い方を厳しく指導してきた。
何割は貯金に回せとか、いくら以上溜まったら投資に回せとか。
当時はそれが死ぬほど嫌だったし、私が意地でも上京したのはそんな干渉から逃れるためでもあった。
結果、大学時代は反動で無駄遣いに明け暮れ、失敗や苦労を重ね、母は正しかったことを身をもって理解した。
悔しいけれど、今は指導に感謝している。