頑固な私が退職する理由

 実は私と青木さんは、理沙先輩と大地先輩の結婚式の演出に協力した経緯がある。
 私は披露宴で流す動画数本の製作を、青木さんはゲストへのサプライズをそれぞれ担当。
 どちらもとても好評で、披露宴はおおいに盛り上がった。
「ふたりとも、あの時は本当にありがとうね」
 彼女はあれ以来、会うたびに感謝の言葉をくれる。
「俺は仕事のコネを使っただけで、別になにもしてないけどな」
 青木さんが用意したサプライズは、人気お笑い芸人の登場だった。漫才のグランプリで優勝したこともある実力派コンビで、新郎新婦をネタにオリジナルの漫才を披露してもらったのだ。
 会場は爆笑に包まれ、サプライズは大成功。
「あれだけ人気のあるコンビを呼べたのは、青木の日頃の仕事ぶりがいいからでしょ」
 我が社は一応広告代理店。芸能事務所との取引も、大手ほどではないけれどいくらかある。
 当時青木さんは仕事で芸人を起用したばかりで、交渉がやりやすかったのだという。
「たまたま事務所に貸しがあっただけだって。自分で全部動画編集した沼田の方が、貢献度は高いぞ」
「いやいや、青木さんだって毎日遅くまでネタ作りしてましたよね? 2回の打ち合わせ以外はデータでのやり取りで、共同製作大変そうだったじゃないですか」
 なにもしてない、なんて大嘘だ。
 この人は褒められるのが苦手で、息をするように自分の手柄を人に譲ろうとする悪い癖がある。
 そんな彼が愛しいけれど、時に無性にじれったくもある。
 私との関係を進展させないのも、そんな性格のせいかもしれない。
「毎日遅くまでやってたのは沼田も同じだろ」
「そうですよ。青木さんも私と同じくらい頑張って、会場を盛り上げた。理沙先輩に褒めてもらえて照れくさいからって、恥ずかしがらずに胸を張ってくださいよ」
「べっ、別に照れてねーし!」
「照れてるじゃないですか」
 私たちが言い合いを始めると、理沙先輩は楽しそうに笑う。
「ふたりとも、相変わらず仲よしだね」
「別に仲よくないです」
「そうそう、超仲よし」

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