頑固な私が退職する理由
炊飯器の急速モードで白米を炊き、雪平鍋に冷凍しじみと水を入れ火にかけた。
お湯が沸くまでの間に卵を割り、水と白だしを加えて撹拌。熱した卵焼き器に3分の1ずつ流し込む。
だし巻き玉子が完成した頃、しじみの出汁の香りがし始めた。ぶくぶく沸騰する鍋から灰汁を取り、火を弱め、もうしばらく煮立ててから味噌をとく。
そうしているところに、青木さんが起きてきた。寝癖がかわいい。
「おはよ。飯作ってくれてんの?」
「うん。お腹空いちゃって。青木さんも食べるでしょ?」
「うん。ありがと」
まだちょっと眠そうだ。そんな顔もかわいいし、伸びた髭も悪くない。
ただし、なぜか全裸だ。
「とりあえず服くらい着てくれる?」
「俺の服、どこだっけ?」
「寝室で脱いだでしょ。コンビニで買った着替えと一緒に置いとくって言ってなかった?」
「あー、そうだった」
寝癖の髪をくしゃくしゃしながらのそのそ寝室に戻る彼を微笑ましく見送り、私は冷凍庫からお取り寄せの鮭を取り出した。グリルに入れて自動で焼いてくれる機能に任せ、まな板にのせていた卵焼きを切る。
テーブルに食卓を整えると、まるで絵に描いたような和定食が完成した。
米が炊き上がった頃、青木さんがダイニングに戻ってきた。服を着て顔を洗い、寝癖も直してきたようだ。
洗いざらしの髪が彼の動きに合わせてさらさら動く。あの髪の手触りを思い出して、くすぐったい気持ちになった。
「おおっ、すげー。ご馳走じゃん」
「今日はたまたま食材が豊富にあったから」
いつでもここまで準備できるわけではないと、今後のためにアピールしておく。
彼に席に座るよう促し、お茶をグラスに注いでから私も着席した。
「いただきまーす」
「どうぞ」
彼はしっかり手を合わせ、まずはしじみの味噌汁に箸をつけた。
昨日二次会でたくさんお酒を飲んだ彼の体のために作ったしじみ汁。評価が気になった。
「はぁ……しじみ、沁みる……!」
彼は気に入ってくれたようだった。
私は嬉しくなって、つい口数が多くなってしまう。