頑固な私が退職する理由
エレベーターが到着。4人揃って乗り込み、SK企画のフロアで降りる。そこからは「私、お手洗いに寄ってから仕事に戻るね」「あ、俺も~」「じゃあミーティングルームの片づけは私がやっておきますよ」「やべ、別のクライアントから電話かかってきたんで、僕ちょっと急ぎます」と各々に別れた。
お手洗いの用事を済ませた私は、ネガティブに傾いた頭を冷たい飲み物で冷やそうと自販機のある休憩スペースへ。
目隠し代わりの観葉植物で見えなかったけれど、そこにはコーラを飲んでいる青木さんがいた。
「うぃっす、お疲れ」
「お疲れさま」
失敗した。頭を冷やすつもりでここに来たのに、ネガティブ思考の原因そのものが待ち構えているなんて。
「……なんか怒ってる?」
怒っているわけではないのだけど、機嫌がよくないのが顔に出してしまっていたらしい。でも反省はしない。
「別に。疲れただけ」
私はそう答えたのに、彼はまったく信じていないようだ。
「まさか、俺?」
「だから疲れただけだってば!」
スマートフォンの電子マネーで冷えたお茶を買う。荒っぽく開封し、一気に半分ほどを飲んだ。
「……おまえさ」
呆れたというより、諦めた口調。
「なによ」
彼が不機嫌な私の顔をじっと見つめているので、恥ずかしくなって目を逸らす。
「怒ってる時の顔、かわいいよな」
「はっ……はあぁぁっ!?」
なに言ってんの、この人。
一気に顔が熱くなる。
「俺はおまえがムスッとしていると、ゾクゾクするよ」
「変態かよ!」
「そうかもなぁ。あと、寝顔も好きだよ? だいたいは白目になっててーー」
「ちょっと! ここ会社だから!」
誰かに聞かれてたらどうするの。私たち、人に言えるようなちゃんとした間柄じゃないのに。
私がプンプン怒ったのが嬉しいのか、彼はケラケラ笑ってコーラを飲み干し、缶を捨ててオフィスへ戻っていった。
「かわいいとか言うな。これからまりちゃんとデートするくせに」
私は自分が彼が時たま見せてくる好意や体の関係にすがっているような気がして、泣きたくなった。
残り半分のお茶は、なかなか減らなかった。