頑固な私が退職する理由
司はウェイターに3杯目の酒をオーダーして、私にくどくど説教を続ける。
「いいか甘ったれ。よく聞け。おまえはそこそこの金持ち一家に生まれて、母ちゃんが美人だから遺伝子レベルで容姿にも恵まれてるし要領もいい。そのおかげで若い頃におまえの顔と体と家の金しか見えてない頭空っぽな男どもを自分の狙い通りに動かせたから勘違いしてんのかもしれないけどなぁ、男はおまえの承認欲求を満たすための道具じゃねーんだよ」
「そんなこと、わかってるよ」
わかってはいるけれど、自分から告白しないと決心した理由を紐解けば、自分の承認欲を満たすことが目的であることは明確だ。図星を突かれて強く言い返せない。
「愛華はさ、青木さんになにをしてあげられんの?」
「え?」
なにをしてあげられるのだろう。考えたこともなかった。
「ブーブー文句言ってるけど、自分は青木さんの承認欲求、満たしてあげてるわけ?」
「それは……わかんない」
というのはごまかしただけだ。満たしてあげられているとは思えない。なぜならそうしようと努めたことがないからだ。
「後輩の女の子は若くて素直で、そもそも青木さんのタイプなんだろ? 女社長はあの通りのイイ女だし、おまえみたいにこじらせてないから男を煩わせることはないだろうな」
「ははっ。ふたりとくっつけば、青木さんはさぞかし満たされるだろうね」
投げやりな気持ちで口に出して後悔した。言葉にしたことで脳がその絵を描いてしまう。
「で? おまえは青木さんをどう幸せにしてあげられんの?」
答えることができない。明確な答えがない。
楽しい時間を過ごすことができる? 温もりを分けてあげられる?
そんなの、きっと私でなくたってできる。
「青木さんから言ってこないのってさ、おまえにそういう決め手がないからなんじゃねーの?」
窓から見える宝石たちが滲む。
司は遠慮がないけれど、嘘はつかない。女癖が悪いけれど、そのぶん女という生き物のことをよくわかっている。
つまり、こいつが言っていることはだいたい正しい。
それがわかっているがゆえに、刺さる。