【完】傷だらけのプロポーズ
…やっぱりない。 この人と恋人関係になるとか無理だ。 ファンデーションの一つも塗らずに美しい肌を持っている彼に、こんな醜い素顔は曝け出せない。
隠して恋人になるのは可能だが、そういった関係にはもう疲れ切ってしまったのだ。
「んーッ。このお肉やっぱり美味しいッ!歯がいらないんじゃないかって位柔らかい…!」
話を変えるようにお肉に舌鼓を打つ。
柔らかくって、高級品を余り食べたことのない私にだって分かる。お値段通り高級なお肉だ。
その辺のまがい物とは全然違う。 誰だってまがい物より本物の方がいいに決まっている。
私の顔は偽物。 一見メイクで綺麗に取り繕っているけれど、いつかはボロが出るに違いない。 そう思えば途端に食欲が薄らいでいく。
顔を上げて、大河さんを見やる。 綺麗な肌の上に形の良い目鼻立ち。 「ん?」と首を傾げて不思議そうな顔をする。
こんな生まれつき恵まれた容姿を持っている人に、私の気持ちなんて分かるはずない。
分かって貰えないと知りつつも、試すような言葉を向ける私はやはり愚かだ。 本当は誰かに分かって欲しい。 自分の全てを曝け出しても愛してくれる人が欲しかった。 そんな勇気もないくせに。