【完】傷だらけのプロポーズ
河合 真澄。 LILI BULEのパーティーで八田さんに絡まれていた女の子。
直接話はした事はないけれど、彼女が去年入社してきた時は可愛いと評判だった。その噂は本店にも流れてきていた。
八田さんのように彼女を口説いていた男性は社内で多かった。 けれど何で朝比奈と彼女が…?繋がりがいまいち分からない。
逃げよう。 そう思ったけれど、硬直して足は動かずにいたままだった。
「あ…!小田切さん…!」
顔を背けた瞬間、彼女の甘い声が私の名前を呼んだ。 どうして私の名前を知っていたのか。 あのパーティーの日に助けただけで、話すらした事はなかったのに。
それにこの状況。話は掛けて欲しくなかった。 どう見ても二人で飲みに行った帰りだ。 そして今まさに朝比奈は自分のマンションに彼女を連れ込もうとしている。
背けたはずの顔をゆっくりと反対に向け、頑張って笑顔を作る。 すると彼女は嬉しそうに瞳を輝かせて、小さな口を開けて笑う。 きっらきらなオーラだ。
「こんばんは…!偶然ですね。 朝比奈さんから同じマンションとは聞いていましたが、会えるなんて嬉しい」
ひくりと頬の筋肉が歪に動く。 無垢な笑顔を向ける彼女を前に、上手に笑えていない。
「こんばん…わあ。本当に、偶然……」