【完】傷だらけのプロポーズ

「ふくしゃちょうだあ…?」

呂律も良く回っていない朝比奈がじろりとこちらを睨む。 思わず目を逸らして、「じゃあ」とその場を去ろうとすると真澄ちゃんに引き止められた。

「小田切さん、帰ってきたんじゃあ…」

「いえ、今からコンビニに行くので。 ではごゆっくり」

二人から背を向けて、反対方向にあるコンビニを目指す。
コンビニになんか行きたくないのに。 真澄ちゃんを家にいれる朝比奈の姿を見たくない。
あんな可愛い子と一夜を過ごす朝比奈の部屋の隣で、ゆっくりと眠る自信もない。


付き合うのだろうか…?朝比奈からは何も聞いていないけれど…。 これまでだって朝比奈が誰かと付き合ったり、誰かを家へと上げる現場を目撃した事はある。

そのたびにきちんと傷ついてきた。 傷つきながらも、それを自分の中で消化してきた。 朝比奈を誰かに取られてしまう。子供染みた意味の分からない感情。


…こんな事ならば、大河さんと朝を迎えてしまえば良かった。

コンビニまで向かう道のり、冷たい風がコートの隙間吹き抜けていく。

どうしようもなく人恋しくなる時がある。 こんな寒い冬の夜は特に、誰かに抱かれ自分の秘密を全て晒してしまいたくなる。

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