【完】傷だらけのプロポーズ
殴られる。と反射的に目を瞑った。 「誰か!」そう真澄の悲鳴が大きくフロア内に響いた。
その瞬間ふわりと誰かに体を抱えられ、世界がさかさまに変わって行く。 その視界の中で、八田さんの真っ青になっていく表情だけが見えた。
「女性に暴力をふるうなんてありえないな。」
「ふ、ふ、副社長…!ご、誤解です…!」
「君には後でそれ相応の処分を受けて貰う事にする。
パーティーの席でみっともない事をするな」
「ちょッ…待ってください!副社長!ふくしゃちょお!!!」
八田さんの悲痛の叫びがフロア中に響き渡っていた。 副社長?!
私を抱きかかえたまま、彼のドレスシューズの音だけがホテル内の廊下に響いていく。
スーツからは、ほんのりと香水の匂いが香る。 これは自社のブランドの女性物の人気の香水の一つだ。
というか、今はそんな事を考えている暇はない。 さっきまで八田さんと痴話喧嘩をしているのも恥ずかしかったが、彼に抱きかかえられ周囲の注目を浴びる事はもっと恥ずかしい。